活動報告

管外視察(光田議員)11/7

活動報告2016.11.25

平成 28年 11月 13日

期間  平成28年11月7日(月)

場所  アットビジネスセンター池袋駅前別館「603号室」

担当署 地方議会総合研究所

担当者 廣瀬和彦氏

 

<視察目的>

「人口減少時代に対応した行政経営の在り方」

上記テーマの講演会に参加。

日本の最重要課題である人口減少に対して、学識者の立場から見た社会問題を踏まえ、神戸市にどのように貢献していくことができるのかを考察する。

 

<視察内容>

人口減少は本当に問題であるのか、人口減少の原因を探り、国の考え方と照合しながら政策で人口増加は可能なのか、調節戦略の必要性を考える。

 

<概要>

人口減少について、政策評価としての人口と基準の恣意性を考察する。人口減少は本当に問題か、人口減少の原因、政策で人口増加は可能か、調節戦略の必要性~少子化対策・移住促進では人口減少は防げない~、国の考え方①「一億総活躍」より、国の考え方②~第31次地方制度調査会答申より~、自然減退のシナリオ、行政経営のパラダイム転換に向けての章立てで考察する。

 

平成28年11月7日(月)

1.人口減少時代に対応した行政経営の在り方

 

講師:金井 利之氏 東京大学法学部教授

 

産業や世界経済の変化に伴い、「若者を中心に」東京一極集中が進んでいる。経済界の変化を一自治体や為政者のみで対応できるものではない。しかしながら、こうした環境要因をどれだけ統御できるかが治政の役割とするなら、為政者の失政責任は免れない。

1960年代、エネルギー革命によって、薪炭業(山林部)から、ガス・石油へ移行し、薪炭業では生計が成り立たない為、村を出て町へ行かなくてはいけなくなった。子々孫々が末広がりに増えることは、その主に甲斐性があり稼いだ証である。日本では「貧乏子だくさん」と言われてきたように、セレブ、富裕層が子沢山かというと、必ずしもそうではない。人口が何を意味するのかは、価値基準によって変わるのである。(基準の恣意性)

人口過剰時代(昭和初期)には、問題山積であった。食糧生産が追いつかず、飢饉になり、産児制限や間引きを行い、優生保護(優れていない生は保護しない)等の調整や、都市計画では都市への流入制限をする政策がなされ、大都市部における過密問題となっていた。自治体では、住宅不足、緑地減少、日照不足、学校不足、インフラ未整備、混雑、近隣紛争、公害など、様々な問題が発生していた。

 

高齢社会における人口減少とGDP

GDP500兆円を維持するには、人口が半分減少すると、生産性を2倍に増やさなければならない。しかし経済は需要と供給の両面があり、人口(需要)が減少すれば生産(供給)も少なくて済む。人口が半減すればGDPも250兆円ですむようになる。むしろ設備過剰で生産性だけが向上すればさらに経済は悪化する。需要の減少が生産性の減少を上回る場合は、生産性を上げる必要がある。つまり高齢者が需要を生み出す場合に限り、生産性を生み出す現役世代を増やす必要がある。つまり高齢社会と人口減少は無関係である。

 

人口減少の原因は何か

文化の観点から見ると、「伝統的家族観の消滅」が挙げられる。跡取りが必要であれば養子縁組をすればよいのであり、自分の子供である必要がない。養子縁組の制度はそれを前提に存在しているという一面を有する。家族間事での揉め事が絶えない為、優秀な人材に継承する方が結果的に家や会社にとっては良いのである。「近代的核家族観の消滅」の方が問題である。

「標準世帯=夫婦に子供二人」という近代的核家族観が一人前の姿であるという、内外からの圧力で嫌々子育てをし、夫は会社に逃避、妻は重圧で溺愛、密着、抱込、虐待、いじめの傾向を生む。そうして熟年離婚の増加により独居老人の誕生する。現代の若者は、そのような近代的核家族観への懸念により概念が消えるため、人口減少は否めないのである。

日本の最大の特徴は、「結婚していないと子供を産んではいけない。」という倫理観である。婚外子は無責任という世論により、ますます婚外子のサポートがなくなる。

望まない妊娠をしたら政府が育てますとは言わないので人口増加も全く進まない。人口増加を望むのであれば、日本人の大幅な意識改革を行う必要がある。

小泉元首相の「構造改革」により、非正規雇用が激増し、男性は標準世帯を構えられるほどの十分な給料を得られず、結婚しない、したくない、できない。夫婦共働き非正規雇用ならば結婚はできるが、時間的・金銭的・体力的に子育ては無理である。正社員であっても、定期的な収入はあるが多忙であり、大企業に勤めていても何が起こるかわからない時代である。支出のうち住居費が最も占めるので、結局、非正規雇用の場合、両親の家に居続ける(パラサイト)ことが合理的である。就業と子育て両立の唯一の可能性は、近隣居住の元気で仲の良い両親の子育て支援が得られる時だけである。これまでは、専業主婦の存在が大前提で保育所が整備されてきた。就業女性は趣味で労働していると認識されていた。

保育施設が必要なのは母子家庭だけとの試算で整備されてきたため、保育所数が不足しているのである。

移民受け入れに関しては、日本は入国管理において閉鎖的な政策を取っている。難民は基本的に拒否の体勢であるが、技能研修生や留学生という形で受け入れており、実質的には日本は移民入国、外国人集住自治体である。

 

死亡減少という観点から検証する。

人工妊娠中絶は年間20万件程度である。しかし無理矢理中絶を抑制しても、育児できる環境ではない。人工妊娠中絶の抑制は政策的に無意味である。

少子化対策は経済的問題だけでは解決できない様々な問題をはらんでいる。政府ができる対策は、財政支出しかないのである。政府や他人が、個人の人生設計に深く関与するのではなく、あくまで条件・法整備、個人の希望実現が前提ではないだろうか。今年から合計特殊出生率が劇的に上昇したと仮定しても、人口維持・増加に結び付くには時間を要するからである。

戦後、急成長したのは、経済対策が良かった訳ではなく、若者(働き手)が多かったからである。(人口ボーナス論)

現在、少子化対策をしたら、20年間はさらに経済が苦しくなる。(人口オーナス論)

新三本の矢政策で、名目GDP600兆円と謳っているが、一億総活躍社会ではますます少子化が進む。インフレが起きても収入が増加しなければ悲劇である。ドルベースの実質GDPが増えないのであれば意味がないのである。中国人は17億人いるので、GDPが日本の比較で10倍あってもおかしくないのである。

 

地方行政の在り方

公共施設を全て揃えようとした「フルセット」は、利用度合や費用から考えても現実的ではない。一つの自治体で保有するのではなく、これからは広域連携で提供すべきである。全ての市町村に図書館、ゴミ焼却場等の公共施設は不要であり、中心となる大きな市でまとめて大きな公共施設を建設し(集約)、 周りの市町村はネットワークを張り巡らせて使う等の工夫が必要である。

 

広域連携の現実的困難さと自然縮退のシナリオ。

A市にa、B町にb、C町にcであれば、相互依存可能であるが、A市が公共施設をフルセットで維持できる場合は、B町C町は極めて交渉が不利になる。相互依存ではなく一方的依存になる。広域連携の困難さは、市町村合併で解消されるわけではなく、問題が隠れてしまうのである。

 

行政経営のパラダイム転換に向けて

「学校」を例に挙げると、統廃合が進めば校区が広くなり移動が長くなり、無駄が多い社会である。しかしサービスの拠点に人口集約(スマートシティ)するのは有効であるのだろうか。遠くに居住していても、インターネットで納税や授業を受けられる、その技術を高齢者にも使いやすいシステムにすると人口集約の必要はもはやない。政府や為政者がリアルな集団生活を重視するのであれば、難しい。IUJターンで活性化するのは一部である。古い行政から脱却した新たなパラダイム転換が求められているのである。

 

<所感>

人口減少社会において、いかに若者(現役世代)を呼び込む人口増への施策を思案していたが、人口減少は悲観的な問題ではなく、むしろ受容するという視点は、日本特有の倫理観や法整備に鑑みると自然な流れであると言えよう。

少子化対策として人口増加に力を入れると、教育設備、住宅問題、騒音問題、渋滞、インフラ未整備等、箱ものへの投資が必至となる。実際に地域によっては教育施設が十分に供給できず仮設校舎で勉学に臨む子供たちも存在する。

人口153万人を誇る神戸市においては、政令指定都市としてある程度の人口数が保てるのであれば、人口減少を喫緊の課題にしなくてもよいのかもしれない。とはいえ、15歳~64歳の現役世代が増加していくことは、街の活力にもなり、経済が活気づく一因ともなる。

2025年、団塊世代が75歳以上となる時期には介護施設を始めとする高齢者向けの施設として対応し、2050年の年齢構成変化に応じて施設の中身をリニューアルするだけで対応可能となるような、柔軟な施策が必要なのではないだろうか。

内閣府経済社会研究所「経済分析」185号に、中央大学経済学部 松浦准教授の論文「相対所得が出産に与える影響」では、一律的な所得保障は相対所得を変化させないため出生確率を上昇させない可能性が高いこと、逆に養育費を低下させる政策は出生確率を上昇させる可能性があることが示されている。

 

参考論文「相対所得が出産に与える影響」内閣府経済社会研究所「経済分析」185号

著者:中央大学経済学部松浦司准教授

http://www.esri.go.jp/jp/archive/bun/bun185/bun185c.pdf

 

松浦准教授の論文でも示されているように、所得増加と出産数の上昇には関連性はなく、子供一人当たりへの養育費増加傾向にある。次ページに記載してある厚生労働白書のデータを見ても、金井教授の主張するように、高所得が出生率に繋がっているわけではなく、所得1位の東京都は出生率最下位である。また、図表1-3-86にあるように、「ややそう思う」を含める約8割の人が、祖父母が育児や家事の手伝いをすることは望ましいと回答しているように、家族の支援を重要視している。金井教授の主張する「就業と子育て両立の唯一の可能性は、近隣居住の元気で仲の良い両親の子育て支援が得られる時だけである。」を裏付ける。

 

平成27年版 厚生労働白書より抜粋

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/15/backdata/01-01-03-044.html

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内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算部 平成25年度県民経済計算について

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/contents/pdf/gaiyou.pdf

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平成27年版 厚生労働白書より抜粋

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/15/backdata/index.html

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平成27年版 厚生労働白書より抜粋

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/15/backdata/index.html

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図表1-3-61から分析できるように、経済的な子育て支援策への要望が上位1位から4項目全てを占めている。保育所から大学までにかかる教育費を無償化にし、国が子供を育てる風土が確立すれば、金井教授が主張するように自然な人口増加が可能となる。

需要と供給のバランスを踏まえながら、その時代に必要とされているものを提供できる自治体が求められている。教育費の無償化には憲法改正が必要であり、神戸市としては、条例等で子育て支援を補完し、現役世代、子育て世代が移り住みたくなるような街づくりを進め、今後もさらなる市民サービスの充実に努める使命があると考える。

以上